見詰めながら、深い疲れに呆然《ばうぜん》となつてゐた。或る朝は偏頭痛《へんとうつう》を感じて筆《ふで》を執《と》る氣力もなく、苛苛《いらいら》しい時を過した。それ等は私にとつては恐らく一生忘れ難《がた》い處《ところ》の、産みの苦しみだつた。が、起稿後半月を過した十月十日頃に、私はともかくも三十|餘枚《よまい》の原稿を、書き上げてほつと一息ついた。そして、いろいろ迷つた末にその題を單純《たんじゆん》に「修道院の秋」とつけて、一|先《ま》づとぢ上げてみた。然し、私の心にはまだほんたうの滿足は來なかつた。しつくりした安心は得られなかつた。
「これでいいのだらうか? こんなものを、自分の作品として世間に發表して、恥ではないだらうか?」
私はさう迷ひ、且《か》つ疑はずにはゐられなかつた。
私はとぢ上げた原稿を二度、三度と讀《よ》み返してみた。と、意に充たない處《ところ》、書き直さなければならない處《ところ》がまだまだ幾個所にもあつた。そして、私はなぜか泣き出したいやうな寂しさを覺《おぼ》えて、ひるまうとする、崩折《くづを》れようとする自分をさへ見出さずにはゐられなかつた。が、そこで私は自分を
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