」
二人はすぐに階下の應接間へはいつて行つたが、寒々とした部屋ながらそこは家具一つ亂れてはゐなかつた。すべては階上での出來事で、更に署長の案内で階段を昇ると、ひどく天井の低い廊下へ導かれたが、そこの一隅の小卓の上には電話器が置いてあつて、その傍には銀貨が一つ光つてゐた。そして、天井と壁の所々には黒ずんだ血痕が幾つか縞を作つてゐた。
「こちらがその臺所で‥‥」
と、ジョンソンは奧の方へ進んで行つた。
無殘な修羅場だつた。フリツツ・ゼツテルベルグは毛布の帽子をかぶり毛皮の靴をはいたまま仰向きになつて血溜りの中に倒れてゐた。その兩手は恐ろしい運命に悲しく服從するかのやうに、掌を上に向けて體の兩側に投げ出されてゐた。また老人の義理の妹にあたるクリスチナ・ヘドストロムはうつ伏せになり、兩手をだらりと垂れたまま料理臺の上に横たはつてゐた。そして、その傍には一人の男が體をかがめて、打ち碎かれた顏の模樣をしきりに調べてゐた。
「醫師のベルントソン君です。」
ジョンソンはその男を二人に紹介した。
グスタフソン警視は會釋しながら、
「二人とも前頭部を割られとるやうだね。死後およそどのくらゐになる
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