ンは、烟の出てゐる拳銃を手にして刹那に息絶えた妻の傍に突つ立つてゐるフレデリツクの方へまつしぐらに駈け寄つた。と、なほも靜かな微笑を浮べながら、いきなり拳銃を顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]に當てると、フレデリツクは一度、二度引金を引いた。恐怖の靜寂、その丈高い體は急にぐらぐらと搖れて妻の體に折り重つて倒れてしまつた。
悲しき宿命
七つの殺人と一つの自殺、かくしてシイドウ・ゼッテルベルグ事件は恐ろしい大團圓を告げた。若男爵フレデリック・フオン・シイドウこそ正しくその兇惡な犯人だつた。
それにしても、この慘劇は何故に起つたのか? これより先フレデリックはゼッテルベルグから多額の金を借りたが、期限が來ても返濟しないので、老人は老男爵に苦情を申し出た。當然來た父の劇しい叱責、その動機を作つたことに狂暴な怒りを發して、フレデリックは先づ老人一家を慘殺してしまつた。而も、警察の手を遁れようと必死になつて、海の彼方コペンハアゲンの或るホテルに妻との部屋の豫約までしてあつたが、先立つ物は何より金、結局若男爵夫妻は父の金を盜出さうとした。戰慄すべきことに、まかり間違へば父殺しさ
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