さうロフベルグが尋ねかけると、カアルソンは暫く首をひねつてゐたが、
「さうさう、たしか庭に梯子があつたよ。そいつであの臺所の窓からはいつたら?」
やがて梯子を掛けると、カアルソンはすぐそれを昇り出したが、忽ちぎよつとした樣子で足を止めた。別莊の中から恐怖の叫びに似たやうな凄まじい唸聲が不意に聞えて來たのだ。カアルソンは梯子を握り締めながら、
「な、何だらう、ありや‥‥」
と、聲顫はせて囁いた。
「猫だ、ゼッテルベルグさんの猫の聲だ。」
と、ロフベルグは落ち着いて答へながら、
「だけど、何か厭やなことでもないと、あアいふ凄い唸聲は立てねエもんだぞ。」
びくびくものでまた梯子を昇り出したが、やがて顏が一番低い窓硝子の所へくると、カアルソンはぼやつと明るい臺所の中を覗き込んだ。可成りな廣さ、弱い光は向ふ隅の料理竈の上にさがつたたつた一つの電球から來てゐる。暫くしてもう一段昇ると、窓硝子に顏をくつつけてぢつと中を眺めつづけてゐたが、突然ぎくりと動いた兩足が段をはづれたかと思ふと、カアルソンは手袋をはめた兩手で梯子の兩脇を掴んだままずる/″\と滑り落ちて地面へぐしやつと潰れたやうになつ
前へ
次へ
全36ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
南部 修太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング