をざつと語り聞かせてゼッテルベルグ老人の殺される前の行動を取り調べてゐる事情を説明すると、
「それで、先週の土曜に老人が御當家へ參上したことが判明しました譯ですが、その點に就き搜査の御援助を戴きたい次第で‥‥」
「さやうさ、たしかにやつて來ましたよ。」
と、男爵は重苦しい聲で言つて、
「だがな、あの老人とは久しい以前からの知合ひでして、心安立てにちよつと訪ねて來たに過ぎませんのぢや。で、今朝方の新聞であの老人夫婦が殺されたと知つて誠に驚いとる譯です。從つて、搜査のお役に立つやうなことは格別お聞かせも出來ませんですて‥‥」
靜に打ち頷きながらも、ソオルは密に探るやうに男爵の顏を見詰めてゐた。次の刹那、もうこれ以上何も聞くまいと決心の臍を固めて、そのまま暇を告げた。そして、警察廳へ歸るや否や待ち兼ねてゐたゼッテルクイスト部長とグスタフソン警視と會見した。
「男爵はたしかに何かを隱してゐます。」
と、ソオルはさすがに興奮の色を浮べて、「聲はしつかりと落ち着いてゐましたが、眼が神經過敏に瞬いてるんですな。とにかくありやア何かにひどくおびえてゐる證據で、どうも見るに忍びなかつたもんですから
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