紫ずんだ脣から囈言のやうに苦しみを訴へてゐるお前を見詰めて、私はまるで自分の意識までを引つ掻き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]されるやうな焦燥と戰ひ、お前の生命に對する不安と爭つてゐたのだつた。
『手術の結果如何だが、とに角、盡すだけは盡してみよう‥‥‥』と、内科の瀧口博士と共にお前を一わたり診察し終つた時、水島はさうした頼りない詞を私に囁いて、お前の爲に寸刻を爭ふ手術の準備を整へに、手術室へ急いだのだ。
『餘程惡い御容態です。何しろ盲膓の半分は化膿してゐるやうですからね。無論、手術の效果次第ですが、或る程度のお覺悟は必要です‥‥‥』と、水島に續いて瀧口博士は私と兄を病室の廊下まで連れ出して、低く落ち着いた、然し、其處に一種の緊張感を持つた聲で、かう告げたのだ。その、或る程度のお覺悟――と云ふ、まるで鐵槌をいきなり眞面《まとも》から打ち降されたやうな詞に、私の頭は混亂した。もう絶望だ――と、私は直ぐに考へてしまつたのだ。
『そんなに氣を落さんでも好い。まだ希望はあるのだ‥‥‥』と、兄は冷靜な態度で私を慰めてくれた。
『その希望が‥‥‥』と、私は直ぐに答へ返した。が、聲は無意識
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