てゐる積りだ‥‥‥‥』
『うむ、とに角君の妻君の生死に係る事だからそれは無理もないがね。まあ考へて見給へ。君の妻君のお腹《なか》から血みどろの海鼠綿みたいなものを切り出すんだぜ‥‥‥‥』
『何、大丈夫だ‥‥‥』と、私はかさに掛かつて云ひ張つた。そして、とうとうお前の手術に立ち會はせて貰ふ事にしたのだつた。
『ぢや、とに角僕の顏に免じて‥‥‥』と、水島は頷きながらまた病室を出て行つてしまつた。
『ほんとに大丈夫か‥‥‥』と、傍でぢつと水島と私の對話を聞いてゐた兄は云つた。
『そんな、兄さん‥‥‥』と、私は輕く冷笑し返すやうな氣持で答へた。
が、血みどろの海鼠綿と云つた水島の詞は、押し隱してはゐたが、私を何とも云へない或る恐怖の中に投げ込んだ。そして、ぢつと眼をふさいで椅子に身を凭せてゐると、まだ手術室に這入り込まない先からお前の手術の場面《シイン》がまざまざと眼の前にちらついてくる。と、足先からかう百足《むかで》にでも這はれてゐるやうな戰慄が總身に傳はつて來て、頭の中がぐらぐらしてくるやうな、厭な氣持に襲はれたのだつた。全く、お前のゴムのやうな腹部の白い皮膚をメスの銀色の刄が鍵形にすつ
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