《あな》のそとへ出《で》て來《き》た。そして、ちよつと息《いき》を入《い》れたやうな樣子《やうす》をすると、今度《こんど》はまた頭《あたま》と前脚《まへあし》を盛《さかん》に動《うご》かしながら掘《ほ》り返《かへ》した土《つち》で穴《あな》を埋《う》め出《だ》した。而《しか》も、幼蟲《えうちう》が出易《でやす》くするためであらう、蜂《はち》は明《あきらか》にこまかい土《つち》の選擇《せんたく》に氣《き》を附《つ》けてゐるらしかつた。さうして穴《あな》がすつかり埋《う》められてしまふと、蜂《はち》は暫《しばら》く穴《あな》のまはりを歩《ある》きまはつてゐたが、やがてぷうんと翅音《はおと》を立《た》てながら、黒黄斑《くろきまだら》の弧線《こせん》を清澄《せいちよう》な秋《あき》の空間《くうかん》に描《ゑが》きつつどこともなく飛《と》び去《さ》つて行《い》つた。
「はつはつは、パパは馬鹿《ばか》だな、ほんとにパパは馬鹿《ばか》だな」
 と、立《た》ち上《あが》りざま、夫《をつと》は高《たか》い笑聲《わらひごゑ》とともに不意《ふい》に無意識《むいしき》にそんな事《こと》を呟《つぶや》いた。そし
前へ 次へ
全17ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南部 修太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング