「あら、またこんな物《もの》を買《か》つてらしたの?」
 さすがに隱《かく》しきれもせずに、夫《をつと》がてれ臭《くさ》い顏附《かほつき》でその壁掛《かべかけ》の包《つつ》みを解《ほど》くと、案《あん》の條《でう》妻《つま》は非難《ひなん》の眼《め》を向《む》けながらさう言《い》つた。
「うん、近《ちか》い内《うち》に取《と》り掛《か》かる裸體《らたい》のバツクに使《つか》ふ積《つも》りなんだよ」
「まア。うまい言譯《いひわけ》をおつしやるのね」
 と、妻《つま》は口元《くちもと》に薄《うす》い笑《わら》ひを浮《うか》べた。
「いや、ほんとだよ」
「ふふふ、怪《あや》しいもんだわ。始終《しじふ》そんな道具立《だうぐだ》てばかりなすたつて、お仕事《しごと》の方《はう》はちつとも運《はこ》ばないぢやないの」
「そんな事《こと》はない。今度《こんど》はきつとする。展覽會《てんらんくわい》の方《はう》の約束《やくそく》もあるんだから‥‥」
「どうだか、またいつもの豫定《よてい》だけなんでせう」
 妻《つま》は微笑《びせう》をつづけながら言《い》つたが、そこで不意《ふい》に眞顏《まがほ》にな
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