堂堂《どうどう》として至極《しごく》落《お》ち着き拂《はら》つた方、正に兄たり難《かた》く弟たり難《かた》しの組《くみ》合せだ。それが大|概《がい》一|局《きよく》に一時間乃|至《し》一時間半、一二度は三時間餘にも及んだことがあるのだが、さう鋭《するど》くもなく敢へて奇《き》手|妙策《めうさく》も弄《ろう》せず靜《しづ》かに穩《おだや》[#ルビの「おだや」は底本では「お゛や」]かにもみ合つてゐる光|景《けい》たるやたしかに「櫻《さくら》かざして」の感《かん》なくもない。
「町内にどうも早《はや》お似《に》合ひの相手が見つかつたもんだなア……」
 と、對局《たいきよく》しながらフト變《へん》にをかしくなつて、そんな感慨《かんがい》を洩《も》らした事もある。だが、無|論《ろん》お互《たがひ》に胸《けう》中|密《ひそか》に「なアに己《おれ》の方が……」と思《おも》つてゐる事は、それが將棋《せうき》をたしなむ者の癖《くせ》で御多分に洩《も》れざる所。然《しか》し、三四年前に半年あまり一|緒《しよ》に萩《はぎ》原|淳《じゆん》七|段《だん》の高弟(?)となつて大《おほ》いに切|磋《さ》琢磨《たく
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