記《くわんせんき》を書き棋《き》力に相當加ふるものありとうぬ惚《ぼ》れて、共に張《は》り切つてゐるのだからたまらない。僕《ぼく》先づ出|陣《ぢん》に及んで何と四|勝《せう》一|敗《はい》、すつかり得|意《い》になつてゐると、つい二三日前には口|惜《や》しさの腹《はら》癒《い》やさんずと向《むか》うから來|戰《せん》に及んで何と三|敗《はい》一|勝《せう》、物の見事に復讐《ふくしう》されてしまつた。その度毎に明|暗《あん》、悲喜《ひき》こもごも至《いた》る二人の顏《かほ》附たるやお察《さつ》しに任せる次第だ。
「何だか長閑《のどか》ね、平安朝みたい……」
 と、いつだつたか僕《ぼく》の女|房《ぼう》が言つた。
「何を?生|意《い》氣言ふな。」
 と、僕《ぼく》早速《さつそく》呶鳴《どな》りはしたものの、口|邊《へん》には微苦笑《びくせう》を抑《おさ》へきれぬ始末《しまつ》。實《じつ》は二人の對局振《たいきよくふり》を如何にも評《へう》し得てゐるのだ。とにかくあんまり強《つよ》くもなく、かと言つてまた格別《かくべつ》恥《はづ》かしいほど弱《よわ》い譯《わけ》でもなく、棋《き》風も先づ正正|
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