へいし》の集團《しふだん》は濕《しめ》つた路上《ろじやう》に重《おも》い靴《くつ》を引《ひ》き摺《ず》りながら、革具《かはぐ》をぎゆつぎゆつ軋《きし》らせながら劍鞘《けんざや》を互《たがひ》にかち合《あは》せながら、折折《をりをり》寢言《ねごと》のやうな唸《うな》り聲《ごゑ》を立《た》てながら、まだ五六|里《り》先《さき》のN原《はら》まで歩《ある》かなければならなかつた。
「F町《まち》はまだかな‥‥」とまた河野《かうの》が振《ふ》り向《む》いて、思《おも》ひ出《だ》したやうに訊《たづ》ねた。
「もう直《ぢ》きだ。よつ程《ぽど》前《まへ》にE橋《はし》を渡《わた》つたからな‥‥」と、私《わたし》は眠《ねむ》たさを堪《こら》へながら生返事《なまへんじ》をした。
「さうか、それでもまだ先《さき》はなかなか遠《とほ》いなあ‥‥」と、河野《かうの》は右手《みぎて》の銃《じう》を重《おも》さうにずり上《あ》げながら云《い》つた。
「うん、それもさうだが、何《なに》しろ己《おれ》はもう眠《ねむ》くて閉口《へいこう》だ。此處《ここ》らでゴロリとやつちまひたいな‥‥」
「全《まつた》くだ。今《いま》一寢入《ひとねいり》させてくれりやあ命《いのち》も要《い》らないな‥‥」
「はは、かうなりやあ人間《にんげん》もみじめだ‥‥」と、私《わたし》は暗闇《くらやみ》の中《なか》で我知《われし》らず苦笑《くせう》した。
 河野《かうの》も私《わたし》もそのまま口《くち》を噤《つぐ》んだ。そして、時々《ときどき》よろけて肩《かた》と肩《かた》をぶつけ合《あ》つたりしながら歩《ある》いてゐた。私《わたし》はもう氣《き》になる中根《なかね》の事《こと》なんかを考《かんが》へる隙《すき》はなかつた。自分自身《じぶんじしん》まるで地上《ちじやう》を歩《ある》いてゐるやうな氣持《きもち》はしなかつた。重《おも》い背嚢《はいなう》に締《し》め著《つ》けられる肩《かた》、銃《じう》を支《ささ》へた右手《みぎて》の指《ゆび》、足《あし》の踵《かかと》――その處處《ところどころ》にヅキヅキするやうな痛《いた》みを感《かん》じながら、それを自分《じぶん》の體《からだ》の痛《いた》みとはつきり意識《いしき》する力《ちから》さへもなかつた。そして、――寢《ね》てはならん‥‥と、一|所懸命《しよけんめい》に考《かんが》
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