《カバレエ》「アポロ」の外へ飛び出した。
「歩いて歸らうぢやないか……」と、外套の襟を立てながら、水島君は云つた。
「ああ、さうしよう……」と、私は直ぐに應じた。
高い煉瓦塀にせばめられた暗い路次を通り拔けて、K街の大通へ出ると、街燈の鈍い光の中に客待ちしてゐた五六人の支那人の俥引達がばらばらと二人の側へたかつて來た。
「不要《プヤウ》……」
「不要《プヤウ》……」
變にむかつ腹の立つやうな氣持でかう繰り返しながら、うるさく迫つてくる俥引達を振り向きもせずに、更け鎭まつた大通のうす暗い歩道の上を、水島君と私とは俯向き勝ちに歩き始めた。
ハルピンの十月末、と云つても、あたりはもう索漠たる冬景色だつた。すつかり葉をふるひ落した裸のポプラ並木、からからに凍りついた歩道、明りを消し、二重窓を降して冷たい沈默を包んでゐる煉瓦や石造りの暗い家並、毎日毎夜の不安な空氣に脅かされてゐる町は、朝から曇つたままに暮れ落ちた暗澹たる夜空の下に、わけても眞夜中過ぎのその夜は、人通さへ稀に無氣味な程に鎭まり返つてゐた。處處のとろんとした薄暗い街燈の陰に腕を組みながら、眠さうな眼を見張つてゐる支那人巡警の影
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