を私に強ひようとし、わけても自分の生き方の止み難さを私に認めさせようとする意圖が露骨になり出して來た時、幽かな嫌厭の氣持さへ時時胸に迫つてくるのを、私はどうする事も出來ないのであつた。
「私の身の上に同情して下さい、同情して下さい……」と、女は西洋婦人らしい率直さで、何度か私に訴へた。そしてその度毎に、「お氣の毒です、ほんとにお氣の毒です……」と繰り返さなければならなかつたが、その聲がだんだん空空しくなつて行くのに氣附いた時、私は密かな痛みを心に感じない譯にはいかなかつた。
一わたり話し終つた女は、やがて疲れたやうに沈默してしまつた。私もそのまま口を噤んで、ぢつと俯向いてゐた。と、もう三時は過ぎたに相違なかつた。小さな火鉢に僅かばかり燃やされた木片で暖まる譯もないがらんとした部屋の中は、凍るやうな戸外の夜氣と共に冷え渡つて、寒さがひしひしと身に迫つて來た。私は堪りかねて部屋の中をぐるりと見廻した。女を見詰めた。が、興奮のすつかりさめきつてしまつたらしい女は陰欝な表情を浮べたまま、身動きしようともしなかつた。一分、二分と、白けきつた沈默の時が移つた。そして、私は傷ましい悲劇の女主人公《
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