、その話を聞いて、始めて非常に驚怖《きょうふ》したとの事である。娘は終《つい》にその俳優《やくしゃ》の胤《たね》を宿して、女の子を産んだそうだが、何分《なにぶん》にも、甚《はなは》だしい難産であったので、三日目にはその生れた子も死に、娘もその後《のち》産後の日立《ひだち》が悪《わ》るかったので、これも日ならずして後《あと》から同じく死んでしまったとの事だ。こんな事のあったとは、彼は夢にも知らなかった、相変らず旅廻りをしながら、不図《ふと》或《ある》宿屋へ着くと、婢女《じょちゅう》が、二枚の座蒲団を出したり、お膳を二人前|据《す》えたりなどするので「己《おれ》一人だよ」と注意をすると、婢女《じょちゅう》は妙な顔をして、「お連様《つれさま》は」というのであった、彼も頗《すこぶ》る不思議だとは思ったが、ただそれくらいのことに止《と》まって、別に変った事も無かったので、格別気にも止めずに、やがて諸国の巡業を終えて、久振《ひさしぶり》で東京に帰った、すると彼は間もなく、周旋する人があって、彼は芽出度《めでた》く女房を娶《もら》った。ところが或《ある》日若夫婦二人|揃《そろい》で、さる料理店へ飯を
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