宮の背後から、ぬっと出て来たのは、筋骨|逞《たく》ましい村の若者であった。それは怪獣のような鋭い眼をして、繁りの青萱の中を睨みつめた。
執念の毒蛇の首は、未だ鈴手綱の端を咬んだまま、ときどき、ビクリ、ビクリとしているのであった。
五
勝国手は古文書《こもんじょ》を写しなどした為に、早夕方になったのに驚き、今晩は大炊之助の家に厄介になるより他なくなった。
茶と塩鮭の塩味とで煮た昆布を吸い物とし、それから、胡瓜《きゅうり》を切って水に浮して、塩を添えて夕食を出された。それは未《ま》だ食べられたが、困ったのは酒を強いられた事で、その酒たるや、正月に造ったという濁酒《どぶろく》で、蛆《うじ》がわいているのであった。
それは好《よ》いが、もう暗くなったのに、直芳が帰って来ぬのが心配になり出した。
従者をして付近を捜索さしたが、どこへ行ったやら少しも知れなかった。大炊之助の方でも心配して、村人を催して大捜索に取掛かった。
「五兵衛太《ごへえた》の娘の小露《こつゆ》の行方も知れぬ」村一番の美しい娘、それの行方も知れずなったのであった。
炬火《たいまつ》を皆手にして三面
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