うが、先ず第一に、その方に預けて置く品がある。さァ、駒越氏、例のをこれへ」
 色の黒い駒越という浪人が、早速そこへ投出したのは、皮の腹巻のまま、ズシンと響く小判百枚。
 九兵衛は意外に驚いた。これでは懐中欠乏とは嘘であった。同じ嘘でも、有ると云って無いのと、無いと云ってあるのとでは、大変な相違。
「へえ――。こんなにお持合せで……」
「いや、未だ他に二三百両は所持致す。けれども、なかなかこの先の物入が大変と存ずるので……ま、とにかくその百両だけは預かって置け」
「へえ――」
「まだ他に一品…………さァ金三郎様、ちょっと拝見の儀を……」
 若侍は鷹揚《おうよう》に二ツ割の青竹の筒を出した。それを開くと中から錦の袋が出た。その袋の中からは普通の脇差《わきざし》が一口《ひとふり》。
「さァ、拝見致せ」
 錦の袋では脅かされたが、中から出たのは蝋色《ろういろ》朱磯草研出《しゅいそくさとぎだ》しの鞘《さや》。山坂吉兵衛《やまさかきちべえ》の小透《こすか》し鍔《つば》。鮫皮《さめかわ》に萌黄糸《もえぎいと》の大菱巻《おおひしまき》の※[#「木+霸」、第3水準1−86−28]《つか》、そこまでは平凡
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