一体それはどういう訳か、後日の為にそれだけでも聴いて置きたいと考えて。
「まァまァお待ち下さりませ。何やら御様子ありげの今のお言葉、とにかくその仔細を、御差支《おさしつかえ》無い限りは、手前どもにお聴かしの程願いまする」
「それは次第に依っては申し聴かせぬものでもない。しかし、これは一大事である。我等に取っても一大事なら、当岡山城、池田の御家に取っても容易ならぬ一大事で」
「えッ」
「他聞を憚《はばか》る事じゃから、そのつもりで」
半田屋九兵衛、何んだか気味が悪くなって来た。御領主にも関係しているらしい一大事なんて、吉《よ》かれ凶《あし》かれそうした事件に掛り合っては、まかり間違えば実際首が飛ぶ。しかし又間違わずに運んだらそれは又どんな利徳が得られるか、それは分らぬ。とにかく聴くだけは聴いておけと。
「半田屋九兵衛、宿屋稼業は致して居りますれど、他聞を憚る一儀ならば、決して口外致しませぬ」
「好し。それでは申し聴かせるが……他に立聞き致す者は居るまいな」
「御覧の如く、未だどの部屋も空いて居ります。泊りの御客は夕方からで御座りまするで……」
「しからばここにて一大事を申し聴かすであろ
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