る事が出来ると思うが。それでも好いか」
「いや、もう、決して後悔などは致しませぬ」
「好し。しからば気の毒ながら我等は他に転宿……当家は遠からず欠所と相成り、一家城外へ追放……そのくらいで済めば、まァ好い方であろう。少し間違うとその方は打首。二本松へ晒《さら》されるかな」
「へえ――、それはどういう訳で」
「いや、長く我等を世話してくれたら、過分の御褒美は勿論《もちろん》の事、次第に依ってはその方を士分にお取立てがあるかも知れぬが……や、緑なき衆生は度し灘し。どうも致し方の無い事じゃ。さァ御両所御支度なされえ。東中島の児島屋勘八《こじまやかんぱち》という店が好さそうに御座る。あそこの主人は物の分る男らしい顔つきで御座るで、あれへ参ろう」

       二

 こうなると半田屋九兵衛、気に為《せ》ずにはいられなくなった。首をチョン切られた上に、二本松の刑場へ晒されるか。褒美を貰った上に士分にまで取立てられるか。どちらかに傾くかという、これは大事な別れ目。しかし、それは浪人達が好い加減の出鱈目《でたらめ》で、つまりは無銭宿泊の口実に、何か彼か拵《こしら》え事を云うのであろうとも思ったが、
前へ 次へ
全30ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
江見 水蔭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング