の商人気質《あきゅうどかたぎ》を代表した人物であった。
「へえ、手前、当家の主人、半田屋九兵衛。本日はお早いお着き様で御座りました」
「早い訳じゃ。今朝《こんちょう》、西大寺《さいだいじ》を出立したばかりで」
「へえへえ、左様で御座りまするか」
「我等三人。チト長逗留《ながとうりゅう》を致すかも知れぬが。好いか」
「有難う御座りまする」
「いやそう早く礼を云ってくれては困る。この後を聴いたらキッとその方、前言を取消すと存ずるが」
「いえ、どう仕《つかまつ》りまして」
「実は我等懐中|甚《はなは》だ欠乏で」
「へえーン」
「三人で二月《ふたつき》三月、事に依ったら半歳か一年、それだけ厄介に相成るとして、その間に宿代の催促されてはちょっと困る。それが承知ならこのままに腰を据えるが、さもなくば他の宿屋へ早速転泊致す。それで好いか、どうじゃの」
すべてこの談判は医者の俊良というのが当っていた。
半田屋九兵衛これには驚いたが、しかし冗談だろうとも考えて。
「へへへへ」
「いや、ただ笑っていては困る。これは本気で掛合致すのじゃから、チャンと胆《たん》を据えて掛ってくれねば、こちらにもいろいろと
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