しょうで、御手数ながらその御見立を一札どうぞ」
「や、心得て御座る。決してこれは毒死では御座らぬ。これは医師の立場からして、拙老がどこまでも保証仕るで、御心配には及ばぬ事じゃ」
届書に俊良、食べ合せ物宜しからず、脾胃《ひい》を害《そこな》い頓死|云々《うんぬん》。正に立会候者也と書き立てた。
検視の役人も来ぬではなかったが、医師の証明があるので、一通り検分の上無事に引揚げた。
急いで死体は笹山《ささやま》へ送って火葬。尼の堕落が悲惨の最期。いわゆる仏説の自業自得であった。
六
天城屋敷の池田出羽の許《もと》へ早馬で駈着けたのは野末源之丞。奥書院にて人払いの上、密談の最中。池田出羽は当惑の色をその眉宇《びう》の間に示しながら。
「シテ、その小笠原金三郎とやら申す浪人の所持致す脇差に就て、御上《おかみ》には御心覚えあらせられるかあらせられぬか。一応御伺い致されたか」
源之丞は恐る恐る。
「御伺い致しましたところ、御覚えの程シカと御心には御留めあらせられぬとの御仰せ。しかし、御傍《おそば》御用の日記取調べましたるところにては、初代長光の御脇差。こしらえは朱磯草研出
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