しの蝋色鞘。山坂吉兵衛の小透し鍔に、鮫皮萌黄糸の大菱巻の※[#「木+霸」、第3水準1−86−28]《つか》。目貫には銀の輪蝶《りんちょう》の御定紋。ちゃんと記録が御座りまする」
「ふむ、それに符合致す脇差を、浪人が所持するに相違無いな」
「左様に御座りまする」
「その金三郎と申す浪人の面体《めんてい》は」
「恐れ多い事ながら、御上に克似《そっくり》の箇所も御座りまする」
「ふむ――」
 智慧出羽《ちえでわ》と云われた池田の名家老も、こう聴いてはハタと当惑せずにはいられなかった。
「それで御上にはなんと仰せあそばされた。御脇差を御直々に、侍女《こしもと》鶴江に御遣わしの御覚え、あらせられるか、あらせられぬか、何んと仰せあそばされた」
「どうも覚えは無い……との御言葉」
「ふむ、その御言葉は、濁っていたか。澄んでいたか」
「何ともそこは、拙者には……」
「いや、大事なところじゃ、構わず御身の見たままを云って見なされえ」
「憚《はばか》りなく申上げますれば、平時《いつも》の御上の御言葉とは少し御違いあるかに承わりました」
「それで、この事件を他の者には聴かさずと、この出羽に先ず相談せよと、こ
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