ので有った。それで捕物に就いての知識は却《かえ》ってお鉄の方が委《くわ》しかった。
「捕縄《とりなわ》の掛け方なら、私に及ぶ者は常陸下総|上総《かずさ》にも有りますまい」
お鉄の自慢はそれだけの実力が有り余っていた。女ながらも掛縄、投縄、引縄、釣縄、抜縄、何でもそれは熟練していた。捕縄の掛け方に就いても、雁字搦《がんじがら》み、亀甲繋《きっこうつな》ぎ、松葉締め、轆轤巻《ろくろまき》、高手、小手、片手上げ、逆結び、有らゆる掛け方に通じていた。
総角《あげまき》、十文字《じゅうもんじ》、菱《ひし》、蟹《かに》、鱗《うろこ》、それにも真行草《しんぎょうそう》の三通り宛《ずつ》有った。流儀々々の細説は、写本に成って家に伝わっていた。
竜次郎は其捕縄に就いても興味を持ち、退屈凌ぎに写本は残らず読んで、それから益々研究心を起こして、実地をお鉄に就いて学んだので有った。
「これでも一子相伝ですが、貴郎《あなた》にですから伝授しましょう。併し昼間はどんな事が有っても授けられぬと、ちゃんと禁じて有りますから、真夜中に教えて上げましょう」
教える為にはお鉄が捕縄を捌《さば》いて、竜次郎を縛りもし
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