ながら、やっている。可笑《おか》しいと思って見れば首を振ったりピョコピョコ跳ねるのはただに少年ばかりじゃない。両博士も変ちきりんな身振をやって歩いている。一番にこれを見付けた助手は、あんまり可笑しいので、
「先生大変お様子がよろしいじゃありませんか。」
と冷評《ひやか》したが何とも返事もしないで相変らず首を振っている。
「どうしたんだろう。それにしてもあの恰好は可笑しい。ハハハハハハ。」
と高笑をしたが、不思議にも自分の笑う声が聞えないのに気が付いた。
「おや。」と思って又大きな声を出して見たが矢張《やっぱり》聞えない。いよいよ不思議に思って、月野博士に追付いて、その袖を引きながら、
「先生、私はどういう加減か耳が聞えなくなっちゃいました。」
と訴えると、矢張博士にも何をいっているんだか判らない。博士は急に思い付いたようにポケットから手帳を出して、
「これは空気がないために音響が伝らないのだ。」と書くと、不思議そうに二人の様子を見ていた他の連中も成程と合点して、
「ははあ。それで聞えなかったのか馬鹿らしい。ははははは。」
と高笑をしたが、口が開いたのが見えるばかり、さっぱり笑声も何もし
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