か壊れずにいるが、部屋の中は宛然《まるで》玩具箱を引繰り返したように、種々《いろいろ》の道具が何一つとして正しく位置を保っているのはなく、悉く転倒して、そこら一面に散在《ちらば》っている中に、月野博士を初め助手も二少年も、折り重って気絶している。
博士は立ち上ろうとしたが、先刻《さっき》の衝突で酷《ひど》く身体を打ったと見えて、腰の関節が痛んで中々立てそうもない。やっと我慢して這いながら室の隅まで行って、壊れた棚から一つの薬箱を取り出して呑むと、少しは心地よくなったので、まず一番手近な山本を抱き起して薬を呑ませると、暫《しばら》くしてようよう息を吹き返した。二人ながらまだ半病人だが互に協力してほかの一同に同じように薬を呑ませると幸にも皆正気に復したが、いずれもいずれも死人のような真蒼な顔をしている。
暫時《しばらく》は誰も無言でいたが、少し元気を回復すると、桂田博士は、
「やどうも大変な目に逢ったね。」
と最先に口を切った。
「実に酷い目に逢った。僕はあの時はもう駄目だと思ったが、それでもよく気が付いた。」
と月野博士が答える。
今迄|喘《あえ》ぐように苦しげに呼吸していた晴次は
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