に乗じて、この試運転の第一着手として、吾が地球から最も近い月世界の探検を思い立ったのである。しかしこんな冒険な一命を賭するような事業に加わるのは実に乱暴極まった話だが、この二人はいずれも月野理学博士の親戚の少年で博士の家に厄介になって、その監督をうけつつ通学しているのだが、いつの間に聞き出したか、桂田博士と月野博士の計画を知って、是非にお伴をさせてくれるようにと、蒼蠅《うるさ》く頼んで何といっても肯《き》かないので、博士も遂に承諾して一行の中《うち》に加えたのだ。それから助手というのは一人は山本広、一人は卯山飛達《うやまとびたつ》といって、ともに博士の手足となって数年来この事業のために尽瘁《じんすい》しているという、至極忠実なる人々だ。日本東京を出発してから十六日目、いよいよ月に近いた時に、不意に飛行器に狂いが生じて遂々《とうとう》こんな珍事が出来したのだ。
 将碁《しょうぎ》倒しになって気絶していた一行の中で、最先《まっさき》に桂田博士が正気に返ってムクムクと起き上った。半ば身を立てて四辺《あたり》を見ると実に何ともいわれない悲惨な有様だ。
 自分らの這入《はい》っていた一室はどうに
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