れは済まなかった。」
と軽く会釈して、
「とにかく、それじゃ帰りながら話しをしようじゃないか。」と先に立って、
「君らの来るのを待っている中にあの山に昇って見ようと思って、頂上に行くと石の恰好のいい奴があったものだから、ナイフで紀念碑を彫《きざ》んで、それから後ろに行くと谷から落ちたんだ。」
「そうか、あの紀念碑を見たから君が無事だった事を知って安心したのだ。それから僕らもあの後ろの崖から飛んで下に降りたのだ。」
「面白いですねえ。」と光雄は横合から鉛筆を引手繰って「僕はあの石を踏み外した時はもう死んで終ったと思ったんだけれど、どうも変だと思って眼をあけるとフウワリと落ちているんでしょう。どうしたんだかさっぱり訳らなかったんです。」
「ははあ。そりゃ吃驚しただろう。」
と打ち興じつつ、今度はアルプス山の谷間を伝うて一まず飛行器まで引き上げた。

    月世界の日課。探検と修繕工事

 一同無事に打ち揃うて引き揚げたが、次に起る問題はまず吾々の地球へ帰るために飛行器の修繕だ。
 空気は前に空気孔を発見したので、二月間は支える事を得るが食料は一月足らずしか貯蓄《たくわえ》がないのだから、
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