山の麓に出た。
 遠くより望んだよりはさらに一層の険峻で、岩は悉く削ったように聳《そばだ》っている。それを伝って段々と昇って行ってやっとの事で絶頂に達した。
 晴次は何やら見出して、不思《おもわず》また「ヤッ」といったが、気が着いて博士の袖を曳きながら、頻りに先方《むこう》を指差すので、そちらを見ると如何にも石碑らしいものがある。
 無人の境に石碑!
 いずれも審《いぶか》りながらそちらへ駆け付けて見ると、一間四方もあるような四角な天然石を立てて、それに何やら彫刻してある。側によってその字を読むと、英文と日本文とで、
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明治四十年十月大日本帝国月世界探検隊この地に達す、一行の姓名を刻んで紀念となす。
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工学博士 桂田啓次
理学博士 月野 清
日本少年 星岡光雄
同    空地晴次
助手   山本 広
同    卯山飛達
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と記してある。
「博士はもう一番にここまで来たんだ。」
と一同はその無事なのを知って、いずれも安堵の胸を撫で下したが、晴次は又、
「それにしてもここからどちらへ行かれた
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