晴次は目を擦りながら尋ねる。
「何時も糞もあるもんか、一日が二十四時間より長いんだから僕らの持っている時計じゃ訳らない。さあいよいよそれじゃ博士を捜索に出かけようかな。」
と空気自発器に薬品を補充して再びそこを発足した。
 今度も矢張首をグラグラさせながら歩いて前とは少しく方向を換えて山を見かけて進んだ。
 その山の高い事といったら想像も及ばないほどで、その下は一面に広い凹地《くぼち》になっている。
 博士は手帳を出して、
「あそこに見える高い山脈は月世界のアルプス山脈で、今吾々の足下に拡がっているのが、ベポアー海だ。」
と書き示すと、二少年は吃驚《びっくり》して、
「海ですって?」と声を出したが、前と同じくさっぱり聞えない。
 余儀なく鉛筆を出して、
「だって海といっても水は一滴もありゃしないじゃありませんか。」
「昔はこの凹所に水が溜っていて海だったのだが、永い年月の間に全然《すっかり》乾き切って終ったんだ。しかし一度は海だったのだから、天文学者は矢張今でも海とか山とかいうように名称をつけて図を作っているのだ。」
 こんな話をしながら一行はいつとなくこの海を渡って、いよいよアルプス
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