事も出来上ったので一同は一まず飛行器の処まで帰って、晩餐の用意に取り懸った。
 やがてそれも出来上って月世界第一回の晩餐会は始まった。
 本気で食事をしていた晴次は急に顔を上げて、
「叔父さん。」と博士を呼びかけて、
「桂田さんはどうしたんでしょうねえ。」
「さよう。きっと最先に一人で探検に出かけているのだろうと思う。」
「そうでしょうかしら。僕は何だかこの月世界の中にほかの人類か動物が生存していて、桂田さんは、それに見付かって捕われたんじゃないかと思うんです。」
 博士は笑いながら、
「そんな事があるもんか。どうして空気のない処にそんなものが生存して行けるものか。」
と言うと、光雄は横から、
「だって僕らが今こうして生きているようにほかの者だって生きているかも知れないでしょう。」と一本遣りこめる。
「そりゃそうだけれども少なくとも月にはそんな生存したものは一|疋《ぴき》だっていないという定説なんだから、そんな事はあるまい。もう程なく帰って来るだろうから、それよりは飯でもすんだなら吾々の住宅《すみか》をあの洞穴の横に造るんだ。」
「家を? だってどうして建てるんです。材木も何もありゃし
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