ご》の足や羽根を毟《むし》ったように鉄製の胴だけが残っている。
この様子を見ると、折角元気を盛り返しかけた光雄と晴次は又心配気な顔をして、
「こんなに壊れて終ったら、もう地球に帰れなくはありませんかねえ。」
と尋ねる。
桂田博士も尠《すく》なからず困った様子で何とも答えない。
六探検者の言語不通
月野博士は最先に立ってズンズン向うに進むのでほかの人々もその後に続いてやって行く。
広い石塊《いしころ》の原を横ぎり終ると今度は見上ぐるばかりの険山の連脈だ。
見渡す限り石ばかりで、四辺には草一本もなく、谷間のような処に下りて行っても、一滴の水さえ流れていない。サハラの大砂漠の最中《まんなか》に投げ出されたようなものだ。それで不思議な事には自分の身体の軽い事といったら踏む足が、地に付いているかいないか訳らないくらい。足音さえしない。それでいくら石塊の上を歩こうとも、険しい山を登ろうとも少しも苦しいと感じない。
「これは面白い。」
と少年は大喜びで、どんどん兎の飛ぶように駆け歩くと、その身体は宛然《まるで》浅草の操人形を見るようにくらくら[#「くらくら」に傍点]して首を振りながら、やっている。可笑《おか》しいと思って見れば首を振ったりピョコピョコ跳ねるのはただに少年ばかりじゃない。両博士も変ちきりんな身振をやって歩いている。一番にこれを見付けた助手は、あんまり可笑しいので、
「先生大変お様子がよろしいじゃありませんか。」
と冷評《ひやか》したが何とも返事もしないで相変らず首を振っている。
「どうしたんだろう。それにしてもあの恰好は可笑しい。ハハハハハハ。」
と高笑をしたが、不思議にも自分の笑う声が聞えないのに気が付いた。
「おや。」と思って又大きな声を出して見たが矢張《やっぱり》聞えない。いよいよ不思議に思って、月野博士に追付いて、その袖を引きながら、
「先生、私はどういう加減か耳が聞えなくなっちゃいました。」
と訴えると、矢張博士にも何をいっているんだか判らない。博士は急に思い付いたようにポケットから手帳を出して、
「これは空気がないために音響が伝らないのだ。」と書くと、不思議そうに二人の様子を見ていた他の連中も成程と合点して、
「ははあ。それで聞えなかったのか馬鹿らしい。ははははは。」
と高笑をしたが、口が開いたのが見えるばかり、さっぱり笑声も何もし
前へ
次へ
全11ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
江見 水蔭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング