「かしこまって御座りまする」
 滝之助は闇の山路を却《かえ》って幸いに、ただ一人にて探しに行った。
 果して山神の石祠の下に、抜穴が深く通じていた。その突当りの処に、部厚の槻《けやき》の箱が三箇隠して有った。十二貫目の一箱をとても滝之助に持てそうが無かったので、その三分の一だけを、それすらも漸く持ち帰った。それはもう夜明近かった。
 これを見て、狂するばかりに喜んだ洞斎老人、余りの嬉しさに胸が躍って急にガックリ打倒れた。それは正しく中気が出たのだ。
「御心確かにお持ちなされませ」
「おー」
 舌が縺《もつ》れて思う事を口に出しては云えなかった。併《しか》しそのふるえる片手や、うっとりした目つきからで、黄金残らず取出すまでは、滅多に死なぬという表現をした。
 滝之助は苦心に苦心を重ねて、幾回にも残りの黄金を持運んだ。それには二日二夜掛ったのであった。
 ガッカリしたのは滝之助ばかりでは無かった。洞斎老人も安心して、それからは昏々《こんこん》として眠るばかり。遂にその翌日、帰らぬ旅へと立ったのであった。
 滝之助はこの結果、思いも懸けぬ大金持の一人となったのであった。

       六

前へ 次へ
全32ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
江見 水蔭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング