れと前に老人より授けられたる切図とを合せて見たが、残念ながら中が一枚抜けていて、どうしても繋がれずにいたところ、今日おぬしが武道者を殺して取ったる中から、又一枚を見出した。きゃつめ、二重底の秘事は知る由もない。諸国遍歴中に偶然手に入れたものであろうが」
「すりゃ、今日の印籠から」
「しかも、前の二枚の中に入れて見れば初めて合《がっ》しる三枚続き」
「おう!」
「僅かに黒姫山麓のホンの一部に過ぎぬなれど、一箱十二貫目入りの分三箇だけの隠し場所が、今日漸く分ったのじゃ」
「三十六貫目の黄金! 小判に直せば、大層な値!」
「それは皆おぬしに遣る、未だその上におぬし引つぎ、印籠集めて他の場所のも探せ。その代りには拙老、頼みがある。おぬしを見込んで申すのじゃ」
「何んなりとも承りましょう、妙高山の硫黄の沸《に》える中へでも、地震《ない》の滝壺の渦巻く底へでも、飛込めとならきっと飛び込んでみせまする」
「さらば語ろう」
五
洞斎老人は大阪落城の無念さに、徳川家を呪う者の中で、最も執念深い者の一人であった。
甲州老人のは武田家再興の夢であったが、洞斎老人のは、敢《あえ》て豊臣家
前へ
次へ
全32ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
江見 水蔭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング