草根木皮の調合に一通り心得が有るところから、籠城中は主に負傷者の手当に廻っていた。
 それが秀頼《ひでより》公初め真田幸村等の薩摩落《さつまおち》という風説を信じて、水の手から淀川口《よどがわぐち》にと落ち、備後《びんご》安芸《あき》の辺りに身を忍ばせていたが、秀頼その他の確実に陣亡《じんぼう》されたのを知るに及んで、今更|追腹《おいばら》も気乗がせず、諸国を医者に化けて廻っているうちに、相模《さがみ》の三増峠《みませとうげ》の頂上に於《おい》て行倒れの老人に出会《でっくわ》した。
 薬を与えたので一時は蘇生したが、とてもこの先何日も保たぬ命と知って、その老人が教えてくれた大秘密、それを今夜は滝之助にと語り移すのであった。
「その老人は甲州浪人の成れの果てで、かつては武田勝頼《たけだかつより》殿に仕えた者とやら。その人の物語った事じゃが、信州黒姫山の麓には、竹流しの黄金がおおよそ五百貫目ばかり、各所に分けて隠して有るという事でのう」
「え、えッ」と滝之助は吃驚《びっくり》した。
「それを探して掘り出そう為に、薬草採りと表面を偽り、今日までは相成ったが……」
「一ヶ所にても見付かりました
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