とすれば、もう確かだ。引捕えて白状さして、今度はこっちから鼻を落してやると、源八郎はそういう決心をして、酒は一升で打ち切り、勘定済まして立場茶屋を出た。
まだ神輿出御の刻限には間があったので、源八郎は群集を避けて、本社の背後へと廻って見た。
有名な乳房銀杏《ちぶさいちょう》から後《うしろ》には杉松その他の木が繁っていて、昼も暗いくらいだから、夜はまだ燈明を消さぬ間から暗いのであった。
源八郎にはしかし、少しもそれが暗くないのであった。透《すか》せば朧気《おぼろげ》に立木の数も数えられるのであった。源八郎の眼は長沼正兵衛すらも驚いているのであった。
小机源八郎は、武州|橘樹郡《たちばなごおり》小机村《こづくえむら》の郷士の子で、子供の時に眼を患ったのを、廻国の六十六部が祈祷して、薬師の水というのを付けてくれた。それで全治してから後《のち》は、不思議に夜目が利くようになったのであった。
野獣の眼が暗夜に輝くという、そこまでには至らずとも、とにかく普通の者に比べると、薄々ながら見えるのであった。
四
何心なく源八郎は裏山の方を透して見た。すると大きな大きな欅《け
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