云わせるのだ」
「お前さんは実に偉い。智慧者《ちえしゃ》だねえ。そうすればお玉さんは松五郎の子で無いのだから、敵《かたき》同士の悪縁という方は消えて了うね」
「そうだよ。それで双方申分が立つてえものだ。なアにどっちからも惚《ほ》れ合っているのだから、こいつは少々怪しいと思っても、筋さえ立っている分には、それで通して了おうじゃアねえか。人間このくらいな細工をするのは仕方がねえよ。嘘も方便で、仏様でも神様でも、大目に見て下さろうじゃアねえか」
「では早速そういう事に取掛るに就ては、内の老爺《おやじ》をここへ呼んで来ますよ」
「その序《つい》でにお玉坊のところへも一寸《ちょっと》立寄って、悪い様にはしねえ。近い内に好い便りを聴かせるから、楽しみにして待っていねえと、そう云って喜ばして置くが好いぜ」
「ああそうしましょう」
「留守の間《うち》に店の菓子を片っ端から食べるが好いかい」
「好いどころじゃア無い、前祝いに一升|提《さ》げて来ますよ」
「有難い。魚は海※[#「魚+喞のつくり」、第3水準1−94−46]《かいず》も結構だッたが、子持の蟹が有ったら二三バイ頼むぜ」
「好う御座んす。探して来
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