まか》すことができるようになった。
 私がホテルの寝台でしおれかかったビリダリアの夜の花。
 必ず、私が眼覚めたとき憂鬱な少女を、その頃、暮れかかった寝室の側に見出した。私が眼覚めたのを彼女が感ずると彼女は、必ず Melins の帯をといて、私の…………………と囁いた。
「妾《わたし》、朝からまっていたのです」

 やがて暫《しば》しの後、彼女の後姿が、混合酒の触感を撒《ま》いて廊下から消えると、私は地下室の湯殿で未来を夢みる。私は現代が、夜光虫と欧羅巴《ヨーロッパ》スタイルのグランド・ホテル・ド・横浜のダンシング・ホールと空中の軽業《かるわざ》だと断定する。
 私の恋人花田君子は一刻後、私の部屋を訪ねてくるだろう。彼女も現代を形づくる発育不完全、性を失った女、太平洋を航海しているアラビア漁船の窓|硝子《ガラス》に似た黒い乳房、戦争と東洋文明が女性をマゾヒストにしてしまう。私が花田君子を家畜のように愛撫した時世から、いまでは私は淫祠《いんし》的な日本人の肉感と、彼女が私になす虐待をあまんじて受けなくてはならぬ。
 私は今夜タバーンの階廊に酔いつぶれる。私は化粧しなくてはならぬ。私の口紅
前へ 次へ
全18ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
吉行 エイスケ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング