コロの愛欲の満腹のためには、私は未来の歓楽もビイクトリア勲章の憧れさえも、放擲《ほうてき》する考えだ。私は死すとも恥ない。
まだ私が銀座でシルクハットのうえ、チャルストンを踊っていたころ、友達の横田は亜米利加《アメリカ》の流行女達の間に東洋人を情夫に持つことが紐育《ニューヨーク》の社交界に風靡《ふうび》しだすと忽《たちま》ち渡米してしまった。いまでは横田はヤンキーの女達が過去スペインの愛犬に恋慕したように、無謀な愛情ときわどい婦人社会の教養をうけて裸体で近東風な機械体操や、スパルタ風の腕力を発揮したり、恐らくあの毛むくじゃらの胸を、つき出して、サロンを物好きな流行女の号令によって、自由自在に這い廻っていることだろう。
しかし、私は横田の生活が羨ましくはない。私には、私を愛してくれる数人の女達によって、運命は咲き誇っているのだ。私は哀れな男ではない。私は傲岸《ごうがん》[#ルビの「ごうがん」は底本では「ごうかん」]な男だ。私が彼女達を愛するのは女達の男道楽さめやすい色恋をシャム料理法と珈琲《コーヒー》色の皮膚に刺繍《ししゅう》した。いまでは犬でさえ逃げ出す女達に、私は容易に身を委《
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