のです。厚化粧した二人の踊り部屋、貴女が私にその許可証を渡さないときは僕はウラジオストックの海に果てたいのです。
――ヨシユキ、貴男《あなた》の戯談《じょうだん》は私達の国では貴族しか云わなかったのです。それにいまでは貴族は殺されてしまうし、私はボルシェヴィズムの女なのです。
アンナ・ニコロに私は再び遅刻してしまう、恋の貉《むじな》は何故、さまで苦しむのか。
――僕はバルチックの軍艦に結婚を申込む、アンナ・ニコロ、今頃はモスクワの政治委員もアンナ・スラビナも昼寝をむさぼってる時間なのです。
ニコロは生れがいいので気儘《きまま》で運命には従順な女なのだが、ブルジョアが滅んでからというものは信仰は痛快にも焼払われてしまった。
――妾《わたし》が真面目な女だものだから、結婚するには政府の許可が必要です。それに東洋人の薄情犬も喰わないのです。
アンナ・スラビナ、三個のスイス製のトランクを開いてみて、彼女は涙ぐむのであった。スラビナの勲章哀れにも売られてしまって、彼等三人の外国人が支那へ兵隊に買われて行かねばならぬ。現在では帝政の紙幣が一文の価値もない。アンナ・ニコロの発育とともに
前へ
次へ
全18ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
吉行 エイスケ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング