れた未来派のオペラ、金属的なめろでい、青磁色の空には女優募集の広告と、ダダイズムの集会の予告板とが蛾《が》と戯《たわむ》れていた。カバレットのキャラバン、酒場から酒場へ近道の建札、夜の美粧院に吊された青蛙の料理写真にしたらんたん、足の化粧法、日本人を日本人らしく見せない整型学、醜いものをグロテスクにするための進歩主義、あわただしい木馬競走に見惚れる観衆の喝采。
私は花田君子柳の下に棄てて、カバレット銀座、未来の情婦、万国の血をみて狂うメイ・フレデリック、私を見るや彼女の情熱死物狂い(その頃喫茶店インタナショナルの芸術家は珈琲《コーヒー》とフランス菓子に驚歎《きょうたん》して昆虫類が今後人間に代ってエゴイズムと排他主義、実行する。)
水晶色のシャンパン、エナメルの空、噴水してメイ・フレデリックの金色の靴、注いで私は彼女に恋を語る。サロンを平定した私、フレデリックの桃色に化粧した爪先に唇を当てて、千九百二十年後の女性の進歩した足を観察する。バビプによって手術された近代女のヴァルバ、マルセル・ウェーブによって美の典型を指示した化粧術、最もきわどいエルンスト・フルウ氏の子宮除去法、知人の政府委員はメイ・フレデリックの美顔術によってマルクス学の国家理論さえ見下す約束手形を振り出した。しかし次の瞬間が私に東京を去らしてしまった。私は日本が過去の栄華から、幻燈に似た流行を耽溺《たんでき》するプチ・ブルジョワの一群と、実生活から畸型《きけい》的に形成されたブルジョワ末期の社会に発生したプロレタリア精神の出現を、繁雑な社会主義理論闘争から逃れて、私を信仰する一人の女性の涙とともに東京駅を離れて品川の砲台、横目で計算していた。私の旅程――
1 横浜外交官の無線電信の費用見つもり処、グランドホテル・ド・ヨコハマに設計された硝子張りの円舞場でスパルタの女と根岸の外人ティームとの間で弓術試合が行われた。
2 神戸――Aオリエンタル・ハウスの踊子が私を占う。「貴男は二十四歳になる恋人と四十歳になるパトロンによって育成されるのです。貴男は、ガソリンの響にもまして不幸な人なのですが、それでいて自分では幸だと思っていらっしゃるのです。」D西洋長屋に住むルーマニア売笑婦。
3 この夕ぐれを門司の港では木の橋の上で天主教の司祭様が新世界の魚、河豚《ふぐ》を釣りあげていられるのであるが、この糸の
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