プロペラのこわれたように扁平な地球からころげ墜《お》ちるような大陸的な叫声を出すのを知っているのです。その他、私は貴女が男装して男の前でズボンを脱いでみせる芸当と、フォルベルゼエルの寄席の衣裳の綺羅《きら》を棄てた手踊と。つまり私のように古くからの恋愛にあまんじた男は貴女のように、知り合うと直《ただち》に知ってしまう恋の形式は、それからどうして恋愛を作り出すのかが私にはわからないのです。
 ――Y、妾を伊達《だて》の花嫁と思ってくれない?
 ――アダ、貴女の浮気の虫はいつまでたってもなおらない。
 ――妾は貴方を愛する。無我夢中で。
 と、アダが云った。

 私は後尾甲板のソファにもたれている。午後三時、太陽が黄色に沈む。アラビア海の鱶《ふか》の大群が白い尾を暮色に飜《ひるがえ》す。旧教の尼僧が静粛に聖書に読み耽っている。アダがマルセーユあたりの歌劇女の着る巴里風の意気な衣裳をつけてやってくる。ボーイが炭酸水とウイスキーを籐の卓子に置いて去ると、恋は異なものね、と云うような顔附をして炭酸水にウイスキーを入れたコップを涼しげにのむのであった。それから私達は骨牌《カルタ》で狐[#「狐」に傍
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