手に戦ったのだが、日本人の余り近代人ばなれのした乱暴さにさすがに出鱈目《でたらめ》の露西亜《ロシア》人も懲々《こりごり》してステッセルと云う将軍が子供をあやすように仲直りをしてくれと云ってきたこと、日本人は極端に臆病であるため虚心坦懐な西欧人の目から見ると、それが陰険にさえうつるので自分のように日本の伝統をもたない日本人の顔をもって生れたものは甚だ迷惑であることをくどくどと私が私のパートナアに話して、であるから自分のような日本人には貴女の美しさとか健康さを直感して貴女を讃美することは、他の国民にも増して劣るものではないことを切々と話す、そのとき場内の電光が絞られてコンダクターの指揮棒がはねかえると数十本の楽士達の手足が渦を巻いて低声で唄いながら踊子達が立上がる。私はパートナアの金髪の波をかきわけてフォックストロットの足並を揃える。すると私の踊友達は中指で私をつつきながら、それでは日本人は野蛮人でもときによると貴方みたいに文明的な日本人もあるので、文明人には国と国の境界はないのだから妾は貴方をわるくは思わないと彼女が云った。

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 私が室蘭丸に帰船したのは午前三時に近かった
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