物の入った三味線を土人街の坊主頭の幇間《ほうかん》が弾き出すと、香港あたりでよく歌われる鴨緑江節を女達が噛むようにうたいだした。すると一座が急に浮かれて酒盃がかるやかに夜目にも白い運河を越えて、日本流の歓待のなかで青い花が満開して、思いがけなくもアダの顔がそこにあらわれてくるのを認めるのであった。
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孟買の花嫁である万国女のいる孟買市場の裏街では天幕の舞台で、緬甸《ビルマ》の女がバゴダ踊をおどっている。町の芸妓達は月光の下でスカリプタの恋愛小説を読みながら顔見世の順番を待っている。私は宴のなかばを抜けて夜の孟買の街を英国の煙管《きせる》から吐き出される煙で曇らすのだが、印度人の象使いが象の背に古代神の敷物を敷いて外人の子供を乗せて円のなかを大声で叫びながら引張りまわしているのを見ているうちに、アダのことを忘れてしまった。拳闘場では印度人の闘士が負ける度に歓声があがる。興行場ではカイゼル髭を生した国王が臨席して其の昔の首洗の井戸で印度の苦行僧がサロメのヨカナンを演じていた。ガンダラ彫刻した夜の女の手が闇から出て私をシセロの居酒屋に引張ると足とも手ともつかぬ黒い肉体を蛇の
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