であった。
「――僕は、あなたに恋愛をするかも知れませんよ。」
「――あたし、そんなこと、好きでなくってよ。」
「――いや、僕にはそれ以外のことはつまらないことなんだ。」
「――あら、なぜ、そんなに亢奮《こうふん》なさるの。」
裏街を行く車窓にメインストリートの上層の華美な電飾が反映していた。
「――……接吻しますよ。」と、僕が云った。
「――……いやです。」と、云う栗鼠の毛皮の外套をつけた女の真珠貝のような耳垂が、センネットの場合の感覚をもって…………――――。
★
下町の袋小路にあるホテルの一室ヘ、僕は僕の恋心を監禁してしまった。
そして、僕は酔ったときの癖で、鍵穴に秘めた最期の手管《てくだ》をもって、ダンス・ホールからの女友達を眺めた。
だが、そこには栗鼠の毛皮の外套をつけた、僕にたいする敵愾心《てきがいしん》を青ざめた顔面に浮べた女性が寝台の柱に凭掛《もたれかか》っていた。
「――……どうしようと、お思いになるの。」
「――……あなたを娼婦として、僕はおつき合いしたいんです。」と、云いながら、僕は外套を脱《と》ると、ソファに埋《うずも》れて青い小切手帳を示
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