え忍ぶことができる、浪速《なにわ》へなりと、上海だって、街のエロチシズムの集散地へなりと、こころのままに行くことができる。
前髪に蝶結びのリボンを巻いた踊子の意気姿、かの女はもとよりショウト・スカウト、ハイヒール、流行色の粧《よそお》いが艶やかだ。
waltz
ダンス・ホールの溶暗《ようあん》のなかで、僕たちは縫目のない肉体のように結びついた……………。そして、赤い蝶のようにホールを旋回しながら、僕は粟鼠の毛皮をつけた甘美な女の顔の花園を眺めながら云うのだ。
「――僕は、あなたを、どう解釈したらいいんでしょう?」
「――そんなこと、ご自由だと思いますわ。」
不可思議な女の声にあらわれるメロデイを感じて、
「――そんなら、僕と、ホールからお出掛けになりますか?」
「――あたし、お供したいんですわ。」
「――何処へ?」
「――あたしのこと、なにもかも、あなたにお委《まか》せするのです。」
「――………しかし。」
「――………おいや。」
妖しい蠱惑《こわく》のなかに、僕は色欲の錨《いかり》を沈めてから、粟鼠の毛皮の外套についた無数の獣の顔を愛撫した。
辻待自動車のなか
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