った。
レムブルグの黄色い涙が夜を濡らした。人々は死を嘔吐して踊場で狂った人間のようにお互の足を踏みつけた。夜会服の白い陸地には、死の暗号文が紅で詩のように書きつらねられた。死体に埋もれていたダリアが開いて萎《しぼ》んだ。
失神した米良の腕を陳独秀はとると、彼等は酒棚のまえで物悲しい乾杯をした。陳独秀は自分こそ全てを失った人間であることを米良に告げ、ブルジョワが三角の頭をしたプロレタリアの赤児を投げ殺す現実を眼のあたりに見て自分、理想と未来をもたぬ自分は、軍国主義の硝子張りの箱のなかで、事件の変転を眺めながら生けるミイラになるより手段のないこと。それらが陳子文の柔弱な死への哀悼歌となって米良を悲しませた。
陳独秀は阿片を加えた強烈な混合酒の杯を米良の杯に噛みあわすと云った。
――恐らくは明日の広東入りさえ時態は不可能にするのだ。
――支那人の思想が偶然のたわものである証拠!
――米良、冷かすのはよしてくれ! 今夜の酒杯が我々の間の永別になるだろう。
――それというのは? 米良の堪えていた涙が溢れ落ちる。
陳独秀は空虚と心の暗黒と、虚無を感じて過去の傷ついた事蹟を振りかえ
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