は光沢のない更紗のように曇っていた。
――リー・シー・ツワン、お別れがきました。我々もまた故国の民衆の苦しみをこの身に衝けたいのです。パニヤ人は遂に英国のブルジョワと結託して同胞に反旗を飜えしました。我々は官憲の眼をくらますために木乃伊《ミイラ》の教訓的な役割をいつまでも演じていたくはないのです。私はたとえマラバーの六個の円筒の下でカルカラの一群によって白骨になろうとも、私は未来の有効な地図に向って突進します。ああ、数日にして私は孟買のマイダンにあります。貴下の御健康と御国の未来を祝福して!
イサックは法螺《ほら》貝のように折れまがって床に跪《ひざまず》いた。
リー・シー・ツワンが云った。
――イサック、ご無事で、再びお会いする日まで!
イサックと米良の視線が合った。米良はソーマの花が萎《しぼ》むのを感じた。イサックが悲しげに彼に握手して、
――メラ、君に贈る親愛、古いスグヤムグラの誓をもって!
イサックの黒い顔に月光のような涙が光った。米良は彼の岩石のような胸に爆弾を装置しながら別離の接吻をした。やがて彼がスラの匂をのこすと黒い尾を曳いて部屋を去った。香港の階段の街が涙に
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