》のなかで聞いた。突然、うとうととしていた米良をマダム・レムブルグがたたき起して一通の電報を手渡すと、
――広東に夜中反乱が起ったのです。形勢は共産軍に絶望です。広東香港間の電信が切断されてその後の消息は不明なのですが、恐らく明日は外国人は南方に於ける商業上の前途を楽観して、交易所では支那へ夥《おびただ》しい投資が行われるでしょう。
――陳独秀は?
――あの人の苦悩は大きいのです。もう何人《なんびと》の力も役には立たないのです。あの人は阿片を多量に喫して辛うじて睡眠をとりました。反乱が妾達の娯楽であった時代が過ぎて、いまでは騒ぎがある毎に妾達の悲しみは増すばかしなのです。
――レムブルグ! 同志は死んでしまうのだ。
すると彼女は顔に青い陰影を無数にこしらえて、
――妾《わたし》はそれについて悲しんだことはないのです。妾の悲しみは人間同士の間の苦しみなのです。いつか支那の軍閥の退屈な野戦が西大后の運河に押し流されてしまう日のあることを妾は知るのです。
飛行機のプロペラの音が空中で急停止した。ローマン・カソリックの円屋根《ドーム》の鐘が午前三時を打った。米良は電報を開いて読ん
前へ
次へ
全27ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
吉行 エイスケ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング