女のように輝いていた。
 通過記録計《パーシーメーター》がまた一転廻すると、太田ミサ子が、情夫のアメリカ人を連れて、中之島の方面から並木道をつたってあらわれた。
 福井貂田が、水晶宮にいたひらめ[#「ひらめ」に傍点]のような女と出現して、しこたまゴム製品を買ってどこかへ消えたころ、私は生田幸子の胸にある真紅の徽章、彼女のエメラルドの海峡から浮びあがって自動扉のスイッチを押して、売品窓からソファに背広のまま仰向けに寝ころんだ売子を敲《たた》き起すと、タヴラ・スゴ六のように、七分の運と三分の医術に身を委託する。独逸《ドイツ》製のサイコロを買うと、そもまま歔欷《すすりな》くように円筒状の夜の大阪を感じていた。

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 夜のヴェールが剥《は》がれて、灰色の壁にもたれて一夜を過した失業者が、赤と黒の市場の魚のように起きあがると、高楼にあらわれた三色旗の天気予報旗をものぐさそうに眺めた。
 割引電車の青い労働帽の炎のような太陽が燃えて、世が明けわたると、半開のビルデングの鎧戸《よろいど》を汚れた袴をはいた女事務員がくぐり、表情の失せた勤め人たちが、破れたわい襯衣《シャツ》から栄養不良の
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