女政客も、女実業家も、映画女優も、成金も、文学者も男性を象徴した酒杯に満ちた、白色の酒で唇をぬらした。
唐突に、鋸《かんな》くずのような幕が切っておとされて、野蛮な四重奏が苛立《いらだ》たしく鳴りだした。最初、私にあたえられた令嬢社交界のような音律の苦痛が、しだいにエクスタシイに私を誘った。
3
堂島ホテル附近にある、夜間薬品店の売子の売行表《リスト》と、商業的な饒舌《じょうぜつ》は、女の温度にたいしてひどく慇懃《いんぎん》なのだ。
午前0時を過ぎると、死体のように冷やかな銀行街から、大江村を渡って、鬢《びん》にほつれるある女が夜間薬品店にあらわれると、灯籠《とうろう》道でもあるくように蒼ざめて、淀川の水面に赤いレッテルの商標を投じた。
金貨遊戯室の、立縞《たてじま》の短いスカートの女が毛皮の襟に顔をうずめて、夜会バッグにしまった三角形の××を彼女の墓誌銘にして、梅田方面に立ち去った。
まもなく、カバーをかけたタクシーが夜間薬品店のまえでとまると、なかから、林田三郎が仕掛花火のように商館にかけこんだ。磨かれた車窓に、西紅葉の横顔がスプリングのついた船舶に乗船する
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